峠にて
真冬、チベットの峠にて。
車で越えるような峠ではなく、歩いて越える峠。
ヤクっぽいのが堅い藪をかじっていた。
積み石の上にいくつも掛けてある白い布は「カタ」。祝福したり、敬意を表すために使われる。カタのほかに小さな経文もくくりつけてあったが、ヤギにかじられて半分になっていた。
峠にはだいたい目立つ目印があって、その意味するところはだいたい同じではないだろうか。そのルートの重要な区切り、ルート同士が交わるポイント、これ以上行くか戻るかを判断する地点。
峠を越えると、だいたい眺望が変わる。 その度にいつも「よくここまで来たなー」と心の中でつぶやく。
峠の目印とは別に、道中には少しだけ目立つ岩があったりする。そういった岩の上に石ころを置き、自分たちの道中の無事やこの場所を通る人の安全をチラッと願う。日本でもわりとある事だ。
チベットの現地の人も同じようで、見てると結構みんな石を置いている。1〜4個くらい。
このような背の低い石積みを見つけた時に、明らかに人が置いたとわかると、「この道は人が通れる、安全な道から外れていない」という安心感が自然に湧いてくる。
現地の人が言った
「石をこう積んで、石の間から覗いたら、その人の将来がみえるよ」
屈み込んで、しばらく覗いてみた。ここは4000m超えの高地、酸素が少なくてこの体勢はつらい…。
「んー?わかんない」
その時に見えたのは雪山だけ。
雪山といっても世界の屋根だから、きっと吉祥でしょう。
そう思ってまた歩き始めた。