美しい、いつも

その時、私とその男性はとりとめのない話をしていて、 彼はもうすぐ生まれ故郷の北海道に帰って生活するとのことだった。 話題が移り変わる中で、彼は自分の先祖が住んでいた土地のことを話してくれた。

「そうだな、その土地の名前はつまり『美しい、いつも』という意味」
「北海道って寒いでしょ、雪が降って一帯が覆われて、草木も覆われる」
「しかし、その土地は地面が暖かいから、雪が積もっても残らず、草とか花とかが一年中ある。どの季節でも緑があって美しい・素晴らしいということなんだよ」

それを聞き、私はどういう訳か深く感じ入った。 その土地の自然に生きてきた古の人々の感情がそのまま地名になり、子孫が私へその由来を教えてくれている。その古の人々の感情が自分に伝えられたことに、なんとも言えないありがたみ(?)のような情が湧いてきたのだった。

「おつかれさまでした」私は男性にそう声をかけて、笑顔で別れた。

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その後、私はこの出来事がずっと心に鮮明に残っていて、いつか機会があれば「美しい、いつも」と呼ばれてきた土地を訪れてみたいと感じていた。それは一種の憧れのような気持ちだった。

「美しい、いつも」の地を探してみたが、はっきりとはわからなかった。大雪山系トムラウシ山から流れるトムラウシ川は温泉の水あかが混じる川とのことで、周辺には温泉が湧いている。地面や温泉の湧き出る所は他の土地より暖かいだろうから、こういった土地のことなのかもしれない。

あの話を聞いてから1・2年後、北海道に旅行する機会があり、 実際にトムラウシ温泉に行ってみた。周辺は地面がホカホカで、思った以上に彼方此方の地面から湯気が沸き立ち、空気も暖かく感じられた。小川には温泉の水垢が多く、水草もボウボウに生えていたので、暖かく養分もあるんだろう。

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このような土地、冬でも温暖で草木が残るところを、いつも美しいと感じてそう呼んだのだろう。